薬を飲んでいる男性

性器クラミジア感染症は、現在日本国内の性病のなかでも男性女性を通じて最大の新規患者数を数えるほど身近です。年間新規患者数は2万人前後で推移しており、感染経路が主に性行為であることから典型的な性病の一種です。潜伏期間が1週間から3週間ほどと比較的長く、自覚症状に乏しいことからも無自覚のまま不特定多数にうつしていることも否定できない側面があります。将来的に不妊症になるリスクが高くなるなど、軽視できない性病です。

性器クラミジア感染症はクラミジア・トラコマティスという細菌が原因なの?

数ある性病のなかでも、性器クラミジア症クラミジア・トラコマティスという細菌の感染で引き起こされます。細菌にはいろいろな種類があることが知られていますが、この細菌の特徴は宿主の細胞から栄養をうけないかぎり、生存することも成長・繁殖することも出来ない点で、ウイルスに類似した性質を持っています。

自立して成長や増殖する機能を有していない細菌は特に、偏性細胞内寄生体と呼ばれる種類に属します。このような特異な形態をもつクラミジア・トラコマティスは増殖様式も独自で、ほかの種類には見られない形態を頻繁に変化させながら成長と増殖を繰り返すと言う特性を備えています。

感染当初は基本小体(EB)という形態で、基本小体には細胞に感染する能力を獲得しています。しかし、増殖する能力は獲得していません。基本小体で感染後、網様体へと変異をとげます。網様体には感染能力は持っていませんが、反対に細胞分裂で増殖する能力を獲得しています。網様体へと変貌を遂げてからは宿主の細胞内のたんぱく質の内部で盛んに増殖を繰り返すようになるのです。

細胞分裂では2が4、4が8といった具合に分裂を繰り返すうちに、1000個くらいまで増殖した段階で再び、基本小体に戻ってしまいます。一方で、増殖した菌でたんぱく質内部では膨張が続きますが、細胞膜は耐え切れなくなりやがて破壊されることになります。細胞膜が破綻したことで細胞外に放出されることで、別の部位に感染範囲を拡大させてゆきます。新しい細胞内でも再び網様体へと変化して増殖するサイクルを繰り返します。こういった形態の変化を繰り返しながら増殖するサイクルのことを二相性の増殖環と呼ばれています。

他の細菌やウイルスでは観察されることのない独自の増殖様式とされているのですが、この増殖サイクルが1回完結するためには48時間程度の時間を必要とするので、性病のなかでも比較長めの潜伏期間になっています。何らかの症状が見られるようになるのは、1週間から3週間ほどの潜伏期間が必要です。

ところで、この菌が感染し増殖する過程で、人体ではどのような免疫機能が反応を見せているのか。体内では菌に感染することで、免疫機能が積極的な活動を開始しサイトカインという科学物質が盛んに放出されます。これは菌からLPSという毒素が放出されますがこれを無害化し悪影響を食い止めるために、サイトカインは分泌されることになるのです。サイトカインは病原菌などに対して身体を防御するために免疫システムから生成されるたんぱく質の一種。血管の拡張や血管の通過性を活性化する作用を持っています。

菌に感染することで患部に炎症が起きるのはサイトカインの直接の影響を受けてのことです。人体を病原菌から守るために必要不可欠な作用であるのは確かですが、発赤や発疹など苦痛で不愉快な症状を引きおこす側面も有しています。患部では充血や体液の滲出なども観察されますが、これもサイトカインが作用してのことです。

他方でサイトカインは免疫機能の一翼をになう好中球を誘導する役割もあります。侵入してきた菌などに対して好中球が排除のために攻撃を行いますが、その役割を終えて死骸となった好中球は体外に排出されることになります。男性では膿の形で女性の場合は特徴的なオリモノなどの形で、好中球が排出される状況を目の当たりにすることが出来るのは免疫機能の影響があるわけです。

クラミジアの性行為以外で感染するルートとは?

性器クラミジアは性行為を感染ルートにして、感染を拡大する傾向が顕著なので典型的な性病の一種です。典型的なのは感染した性器粘膜に非感染者の性器粘膜が接触をもつことで感染が伝播してゆきます。感染経路の主なものが性行為なのは、接触感染のための条件を全て揃っているためです。しかし、角質層で保護された皮膚組織では感染を拡大するのは困難です。角質層にはバリア機能がありそれなりに堅牢なので、バリア機能を突破して感染をするほどの感染力を獲得しているわけではありません。
しかし粘膜組織には角質層に相当する機序は備わっていないわけです。もちろん免疫機能はそなわっているものの、粘膜に取り付かれてしまえば感染を防ぐのは困難です。この事実は、粘膜同士の接触する機会さえあれば、必ずしもセックスにあたる性行為だけに、感染ルートが限定されるわけではないことを意味しています。

粘膜は口腔にはじまり、消化管や肛門、もちろん性器にも分布しているので、これらの部位の粘膜に感染が見られれば、性的接触行為をもつこと全般が感染ルートになりえるわけです。具体的にはオーラルセックスやキス程度の接触でも感染ルートになり、現にオーラルセックスの提供が一般的な性風俗サービスの従事者や利用者にクラミジア患者が増加しているほどです。

しかしながらクラミジア・トラコマティスに感染しても、自覚症状がないことが多いという問題点があります。自覚症状がみられない感染症に罹患した状況のことを、無症候性感染と言います。無症候性感染の状態では原因菌に感染しているのに、なんらの自覚症状も経験されません。しかし自覚症状がないとはいっても、原因菌に感染した状態は自然治癒することはなく、確実に第三者への感染力を保持続けています。しかも無自覚のまま検査や治療もされないまま、放置されるという状況は、さらに感染拡大のリスクを高めることになります。

潜伏期間が1週間から3週間と比較的長いので、原因となるのが性行為とは認識されない可能性があるわけです。長期間放置すれば、感染範囲の拡大による合併症や、不妊症などの別のリスクにも直面することになります。僅かな性器の違和感も軽視しないで、検査や治療の機会を逸しないことがポイントです。

またクラミジア・トラコマティスが性行為以外の感染ルートのなかには性的接触を前提にしない事象も含まれています。確かに宿主の細胞を離れて長期間生存することが出来ませんが、感染者の体液などに接触する可能性が存在する場合は、低いとはいえ感染ルートになりえることは念頭に置くべきです。

注意するべきなのは、公衆便所の便座の使用です。感染者が使用して間もない時間の場合には、原因菌が感染力を保持したまま生存している可能性があります。洋式便座では患部に接触することが否定できないので、状況に応じて除菌シートなどの携帯も考える必要があります。

また不特定多数の人間が間接的にせよ感染粘膜に接触するリスクがあるのは、温泉や大浴場・スポーツジムなどを挙げることが出来ます。このような施設のなかでは、マットや座椅子などを介して感染者の体液などが付着しているリスクがあります。もっとも宿主の身体を離れれば、長期間生存できないことを踏まえると、大型浴場に入浴したり、プールで泳いだリする程度では感染するリスクはありません。性行為以外の感染リスクは低いものの、一応可能性は押さえておくべきでしょう。